雑損控除と災害減免法の違いと計算、繰越
結論:雑損控除は損失を所得から引き、引ききれない分を翌年以後3年間(東日本大震災と、令和5年4月1日以後に発生した特定非常災害は5年間)繰り越せる制度で、災害減免法は所得金額の合計額が1,000万円以下の人の所得税を、その年だけ全額・2分の1・4分の1のいずれかで免除・軽減する制度です。同じ損害について使えるのはどちらか一方です。対象は、2026年中に地震・台風・大雨・火事などの災害(雑損控除は盗難・横領も)で住宅や家財などに損害を受けた人で、災害減免法は住宅や家財の損害金額が価額の2分の1以上の場合に限られます。その年の所得税は、所得が低く損害が中くらいなら災害減免法、所得が高い・損害が大きいなら雑損控除のほうが軽くなりやすく、たとえば給与500万円・社会保険料75万円の人の家財の損害100万円(災害関連支出10万円)なら、雑損控除で52,377円、災害減免法で0円です。この記事では2つの計算の違いを確認し、令和8年分の計算例で並べて比べます。
雑損控除:所得から引く(繰り越せる)
雑損控除は次の(1)と(2)の多い方を、ほかの所得控除より先に所得から引きます(所得税法72条・国税庁 No.1110)。
(1)(損害金額+災害等関連支出−保険金等)−総所得金額等×10%
(2)(災害関連支出−保険金等)−5万円
- 損害金額は損害を受ける直前の時価が基準です。住宅・家財・車両は国税庁の「損失額の合理的な計算方法」で計算できます。
- 災害関連支出のうち原状回復(修繕)の支出は、損害金額に当たる部分を除いた額だけです(所得税法施行令206条)。損害金額100万円の資産を120万円で修繕したなら、災害関連支出は20万円です。
- 災害関連支出は、原則として支払った年分の雑損控除に入れます。災害のあった年の翌年1月1日〜3月15日に支払った分は、災害のあった年分に含めることができます(所得税基本通達72-5)。
- ただし、土砂などの障害物の除去・原状回復・損壊や価値の減少を防ぐための支出は、災害がやんだ日の翌日から1年以内(大規模な災害などやむを得ない事情があれば3年以内)に支払ったものだけが災害関連支出です(所得税法施行令206条1項2号)。壊れた住宅・家財の取壊し・除去(同1号)と、被害の拡大・発生を防ぐための緊急の支出(同3号)にはこの期限はありません。年分の選び方(72-5)とは別の条件です。
- 保険金等(火災保険・地震保険の保険金、損害賠償金など)は、まず損害金額から引き、超えた分を災害関連支出から引きます。一般の見舞金・災害義援金・被災者生活再建支援金は保険金等に含めません。
- その年の所得から引ききれない分は、翌年以後3年間(東日本大震災と、令和5年4月1日以後に発生した特定非常災害は5年間)繰り越せます。
- 住民税にも雑損控除があるので、翌年度の住民税も軽くなることがあります。
災害減免法:所得税そのものを軽くする(その年だけ)
住宅や家財の損害金額(保険金などで補塡される額を除く)が価額の2分の1以上で、所得金額の合計額が1,000万円以下なら、雑損控除の代わりに所得税が軽減・免除されます(災害減免法2条・国税庁 No.1902)。
| 所得金額の合計額 | 軽減される所得税 |
|---|---|
| 500万円以下 | 全額 |
| 500万円超750万円以下 | 2分の1 |
| 750万円超1,000万円以下 | 4分の1 |
軽減されるのは住宅ローン控除などを引いた後の所得税です。繰越はなく、住民税にもありません(市区町村が条例で住民税を減免することはあります)。
計算例(令和8年分)
例1・例2は給与500万円・社会保険料75万円(総所得金額等356万円、所得控除179万円)で、損害が無ければ所得税(復興特別所得税を含む)は90,358円です。いずれも住宅・家財の損害が価額の2分の1以上の場合で、ツールの入力例と同じ数字です。
例1:家屋の損害800万円・保険金300万円・災害関連支出50万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 差引損失額(800万+50万−300万) | 5,500,000円 |
| (1) 550万−総所得金額等の10%(35.6万) | 5,144,000円 |
| 雑損控除なら:その年の所得税 | 0円 |
| 雑損控除なら:翌年以後に繰り越す雑損失 | 1,584,000円 |
| 災害減免法なら:所得税(全額免除) | 0円 |
その年の所得税はどちらも0円ですが、雑損控除は所得356万円を引ききっても158.4万円が残り、翌年以後3年間に繰り越せます。住民税も軽くなることがあります。
例2:家財の損害100万円・災害関連支出10万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 雑損控除の額(110万−35.6万) | 744,000円 |
| 雑損控除なら:所得税 | 52,377円(37,981円減る) |
| 災害減免法なら:所得税 | 0円(90,358円減る) |
その年の所得税だけを見ると災害減免法のほうが軽くなります。雑損控除は所得から引ききれるので繰越はありません。ただし雑損控除には住民税が軽くなる面があるので、所得税の差だけでは決まりません。
例3:給与900万円の人の損害300万円・保険金50万円・災害関連支出20万円
総所得金額等705万円・所得控除130万円で、損害が無ければ所得税は737,672円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 雑損控除の額(270万−70.5万) | 1,995,000円 |
| 雑損控除なら:所得税 | 330,293円(407,379円減る) |
| 災害減免法なら(705万円なので2分の1):所得税 | 368,836円(368,836円減る) |
所得が高く、軽減が2分の1になるので、この例では雑損控除のほうが所得税も軽くなります。
国税庁の比較例で確かめる
国税庁のパンフレット「暮らしの税情報(令和8年度版)」の「災害等にあったとき」には、令和8年分の比較例があります。所得600万円・夫婦と子2人(16歳以上、うち1人は19〜22歳)、社会保険料控除115万円・生命保険料控除4万円、災害関連支出なし、損害は住宅や家財の価額の2分の1以上という条件です。
| 損害額 | 雑損控除/災害減免法(所得税等) |
|---|---|
| 損害なし | 181,200円 |
| 100万円 | 140,300円/90,600円 |
| 200万円 | 68,900円/90,600円 |
| 300万円 | 17,800円/90,600円 |
ツールに総所得金額等600万円・所得控除の合計325万円(上の控除に配偶者控除38万円・扶養控除63万円と38万円・基礎控除67万円を足した額)を入れると、100円未満を切り捨てた額が表と同じになります。
盗難・横領の場合
雑損控除の対象になる損害の原因は、災害・盗難・横領です。詐欺や恐喝による損失は対象になりません(国税庁No.1110)。盗難・横領のときは、次の点が災害と違います。
- 損害を受けた資産の原状回復のための支出などは「災害等関連支出」として (1) の式に入ります。災害のときと同じく、原状回復の支出は損害金額に当たる部分を除いた額だけです(所得税法施行令206条)。ただし (2) の式の「災害関連支出」は災害で壊れた住宅・家財の取壊し・除去などの支出だけなので、盗難・横領では (2) の式を使いません(No.1110 注2・注4)。
- 災害減免法は使えません。災害減免法の「災害」は、震災・風水害などの自然現象の異変、火災などの人為による異常な災害、害虫などの生物による異常な災害です(No.1902)。
- 繰越の5年は特定非常災害による損失だけで、盗難・横領は3年です。
必要書類と罹災証明書
- 雑損控除:確定申告書に雑損控除に関する事項を書き、災害等に関連したやむを得ない支出の領収を証する書類(取壊し・除去・原状回復などの領収書)を添付するか、提出のときに提示します(No.1110)。
- 災害減免法:確定申告書・修正申告書・更正の請求書に、適用を受ける旨・被害の状況・損害金額を書いて出します。期限後申告でも適用されます(No.1902)。
- 罹災証明書:家屋が被害を受けたとき、被害を受けた人が市区町村に被害の状況を申告し、市区町村が確認して発行します。全壊・半壊などの被害の状況が書かれていて、税の軽減を受けるときの被害割合を判定する目安になります。税務署は、申告のときに罹災証明書を添付するか提示するようお願いしています(国税庁「災害に関する所得税の取扱い(個人の方)」)。
- 給与の源泉徴収票は、申告書への添付や提示は要りませんが、申告書を作るときに使います(No.1110)。
どう選ぶか
- その年の所得税:所得が低く損害が中くらいなら災害減免法が大きくなりやすく、所得が高い・損害が大きいなら雑損控除が大きくなりやすい。
- 翌年以後:雑損控除は引ききれない分を3年(特定非常災害は5年)繰り越せる。災害減免法はその年だけ。
- 住民税:雑損控除は住民税も軽くなることがある。災害減免法は所得税だけ。
確定申告で雑損控除を選んでいても、修正申告・更正の請求で災害減免法に切り替えることができます(No.1902)。迷ったら税務署に相談してください。
よくある質問
雑損控除と災害減免法は両方受けられますか?
同じ損害についてはどちらか一方です。確定申告で雑損控除を選んでいても、修正申告や更正の請求のときに災害減免法に切り替えることができます(国税庁No.1902)。
災害減免法を使える条件は?
災害で受けた住宅や家財の損害金額(保険金などで補塡される額を除く)がその価額の2分の1以上で、その年の所得金額の合計額が1,000万円以下であることです。所得金額の合計額が500万円以下なら所得税の全額、750万円以下なら2分の1、1,000万円以下なら4分の1が軽減されます。
雑損控除で引ききれない損失はどうなりますか?
翌年以後3年間(東日本大震災と、令和5年4月1日以後に発生した特定非常災害は5年間)に繰り越して、各年の所得から引けます。繰り越すには確定申告書第四表(損失申告用)を出し、その後も毎年確定申告をします。災害減免法には繰越がありません。
盗難にあった場合も使えますか?
盗難と横領は雑損控除の対象です。詐欺や恐喝による損失は対象になりません。盗難・横領では、原状回復のための支出などは (1) の式に入りますが、(2) の式(災害関連支出−5万円)は使わず、災害減免法も使えません(国税庁No.1110・No.1902)。
罹災証明書は必要ですか?
罹災証明書は市区町村が被害の状況を確認して発行するもので、被害割合を判定する目安になります。税務署は、申告のときに添付するか提示するようお願いしています。雑損控除では、取壊し・除去・原状回復などの支出の領収書を添付するか提示します。
根拠資料
- 国税庁 タックスアンサー No.1110 雑損控除/No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除(いずれも令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁「確定申告書の手引き」手順4(差引所得税額・災害減免額)
- 国税庁 パンフレット「暮らしの税情報」(令和8年度版)災害等にあったとき(雑損控除と災害減免法の違い、令和8年分の比較例)
- 国税庁 災害に関する所得税の取扱い(個人の方)Ⅵ り災証明書の添付又は提示
- 所得税法 第71条・第72条/災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律 第2条